鍋のある食卓

第三話 

冬の味覚、おでんについて、あれこれと綴ってみたい
そして、一年の半分を出張していた平成8年頃の記憶にあるおでん玉子買占め事件
初代のデジカメ写真が残っているからなんとか思い出せるが、あの時は火の玉のように走り回っていた
だから、休日は鍋を囲みたかったんだなあ



はんぺんは悲しからずや 鍋の汁 部屋の湯気にも 染まず漂う



 名歌人と言われる人の短歌に、白鳥が海や空の青さに染まらずに云々ということで、上に提示したぼくの作品と同様の悲しさを詠んだものがあるらしいが、はんぺんがおでん鍋のなかで、みんなが茶色に染まっていく中で、自分だけがぷかぷかと浮いている現象に、悲しいとかなんとかを持ち込んだ力ワザに、私は軍配をあげたいと思う。

 あなたの判定は、どっち?




仕事が一段落

おそらく金沢あたりに向かっているところ。
つまみにしている小鯛の笹漬は福井の名物。
この頃出張のお供は、碁の本。
ゆららと酔い、白と黒の石がもつれあい、じゃれあうさまは、仙境に遊ぶようです。


おでん雑感

出張に手放せないのが、ビタミン補給のサプリメント。
ろくな食生活ではないから、必要な栄養がごっそり抜け落ちるような不安にいつもとらわれていました。
出張先で、十分に野菜や果物を取ることはまず不可能です。
この当時は、不眠、二日酔い、腰痛、歯痛、など、不健康な症状のオンパレード。
椿峰便利帳を作るきっかけとなった、病院、歯科医院リストの必要性を、このときに痛感しました。

痛感⇒痛いから何とかしようとおもうこと。一晩中歯が痛むのはつらいですよ。




鍋の魅力は、材料調達に始まります。

たとえば、変哲もないおでんをやるとしても、気の利いたスーパーに行けば、迷い始めたらきりがないほどの材料が
「私食べて」と誘惑してきます。

以前から旨いってことはわかっている竹輪と、初めて見る竹輪。
うむ、こちらは卵白をつなぎに入れず、鱧を贅沢につかったのか、ほう、こちらは鯛をふんだんに使ったのか、ホントかいな。

へえ、国産コンニャク芋100%。
それで、この値段は安いんでないかい(後日、コンニャク芋というものはほとんど国産と判明)。

なんて、気が向けば全部購入しても支払いに苦しむことはない。
この気安さがおでんの楽しさの源です。

とりあえずおでんのネタ、好きな順にベストスリーを決めてみようかな。
こういうのって、楽しいなあ。

厚揚げ。
こんにゃく(三角に切る)。
大根。
以上三品。

これらは、好きとか嫌いとかいうのではなく、おでんにはなくてはならないもの。
いわゆるつき物と思っているから、ベストスリーというよりも、別格扱いにしよう。
おでん界の朝青龍だな。
そうしないと、この雑文、ここで終わりだもの。

まあ、この三品はどこのおでん屋でも当たりはずれがなく、しかも安いのだから大した物だ。
好きだから食べるのか、おでんに付き物だからしょうがないと思っているのか、ぼく自身にもよくわからない。

それにしても、あつあげはともかくとして、大根とこんにゃくは、おでん以外では、まずかぶりついたり食いちぎったり頬張ったりすることはないと思うから、つくづくおでんというのは、大根とこんにゃくにとっては一世一代の晴れ舞台なのだと思う。
であるからして、これら必須ものを除いたものからベストスリーを改めて選びます。
ではでは、おでんの「具の骨頂番付」。

じゃん。
牛すじ、さつま揚げ、竹輪麩。

です。

コンビニのレジ前のおでんには竹輪麩がないことが多いが、どうしたことだろうか。
汁を濁らすのが敬遠されたのだろうが、竹輪麩はとろけ気味でありながら歯に抵抗する姿勢もあり、好きですね。
あの穴のおかげで、旨いとろみが内側にもあります。竹輪の穴は製法上の理由であいた穴ですが、竹輪麩の穴は旨みを持つ穴であります。

三十年前に上京するまでは、竹輪麩の存在を知りませんでした。
気取って難しい言い方をしてみましたが、田舎出の若者は見たことがなかったのです。
持ち帰り専門のお惣菜屋さんで、その大きさと値段の安さにひかれて、飯のおかずとして愛好しました。
今でこそ、日本中で竹輪麩を見ることが出来ますが、その当時は私の生まれ育った九州の田舎では見ることができず、帰省のお土産にしたこともあります。

おでんの竹輪麩を馬鹿にする人とは、あまり付き合いたくないような気がします。
しかし、竹輪麩ばかりを注文する人ともあまりお友達にはなりたくないような気がします。
汁が濁るとか、単価が安いとか、色々な理由はあるのでしょうが、竹輪麩はおでん以外では見かけたことがないので、庶民の味方、コンビニでこそ、是非是非竹輪麩をかわいがってやってほしいと、竹輪麩ファンは思うのです。

話は少しだけ変わりますが、おでん屋であろうとコンビニであろうと、おでんの注文の仕方には、
まんべんなく、という暗黙のルールがありますよね。
まんべんなくが無理な場合でも、好きなモノだけを買い占めてはダメ、ですよね。
その気になれば、いい大人なら、玉子だってゲソ揚げだって、買い占めるくらいの財力は誰にだってあるんだけど、「それをやっちゃあおしまいよ」というのが大方の常識人の感覚だろう。

出張先のビジネスホテルの一階にある、こじんまりとしたコンビニで、玉子をあるだけ(5、6個かな?)買われてしまった現場を目撃したことがあるが、店員サンはとても悲しそうに見えた。

「玉子を、、、全部です、、、ね」
という確認の言葉が悲しそうだった。

これは、玉子「だけ」、というのがいけないのであって、このほかにもこんにゃくやさつま揚げ、餃子巻きなどを一緒に買うんだったら、店員サンからも

「酒盛りかな、こんな寒い日には、やっぱりウチのおでんだよ」
という共感を得られたはずなのだ。
店員の「ありがとうございました」にも力が入ったハズなのだ。
たまたまそこに居合わせたぼくに、
「なんじゃ、こいつは」
と思われて、それから何年もたって思い出されてインターネットで蒸し返されることもなかったのにね。

脱線したが、ほかにも好きなも。
汁をたっぷりと含んだ「がんもどき」の旨さはたまらない。
おでんの汁と、がんもどき内部の汁は明らかに味が違う。
だから、一口目は上品に箸でちぎるのではなく、丸ごとにかぶりつくのが旨い。

いろんな具の入った厚揚げの丸い豆腐を、精進料理で鳥の雁に見立てたというが、どう考えても雁と間違えるワケはない。
しかし、肉の旨さに通じるボリュームのある食べごたえを感じます。
そして大根と昆布ががんもどきに奥深い滋味を与えていると思う。

安いかまぼこも好きだな。
特売で98円なんていう、高級品ならざるものがいい。
それでもきちんと板にのっかって、品がいいなあ。
板からはずして、大きく斜めに、真っ二つにする。ここ、なぜかこだわります。
子供のときの楽しかったおでんの記憶なんです。

かまぼこをネタにしているおでん屋が少なくて残念です。
だから自分で材料を集めて作ることになる。

おでんには、おいしかった思い出の材料を集めることになる。

ウインナー、笹かまぼこ。
焼き鳥(冷凍モノで構わない。串のまま鍋にほうり込む)。

素人料理にありがちな邪道度が低いような気もするが、おでんというやつは、鍋の中でも特に許容度の大きいもので、邪道に踏み込みにくいところがある。
よほど変なものを、ウケ狙いで入れないかぎり、なかよく鍋の中で混浴してしまうのです。

カレー粉を入れるということは、東海林さだおさんが発表済みだし、名古屋には当然のように味噌のおでんがある。
九州ならとんこつ風があっても驚かないが、今のところ聞いたことはない。
でもぼくが知らないだけで、きっと、博多あたりには、ある。



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